蛹令嬢の肖像

蛹令嬢の肖像 (集英社文庫)

蛹令嬢の肖像 (集英社文庫)

最初は、キャリアアップを目指す弁護士女性が、顧客である男性と恋愛関係に入るのを躊躇しつつもどうしようもなく惹かれてゆく、というステレオタイプなロマンスと思わせといて、後半からは目がまわるように話が展開します。

「蛹」(フェルメールレンブレントを思わせる架空の17世紀オランダ絵画)が描かれるまでの画家とモデルナチスドイツの思惑によって流転する「蛹」と悲劇に見舞われる所有者一家、「蛹」の返還を求める訴訟を起こした老婦人が生きる現代のニューヨークと3つの時代が物語を織り込んでゆきます。

戦時中に略奪された美術品を、被害者が返還を求める訴訟を起こしても、法律は必ずしも彼らに味方しない。弁護士でもある著者が、法律家としての立場と個人の倫理観との葛藤をきっかけに、小説として魅力をもたせつつ、読者にある答えを示しています。単純な勧善懲悪でないその結末も考えさせられました。

和訳が出た

またまた編物リングの「ユチコの編み物記録」さんの情報で、「The Shop on Blossom Street」の訳本「恋のつぼみがほころぶとき」が出たことを知りました。3冊シリーズで2作目までもう発売されています。原作はほぼ1ヶ月かかって読んだのに、訳本はほぼ1日で読了。なんか、むなしい。英語では読み落としていたつっこみどころも満載。ジャクリーンの旦那様の秘密とか。。。ありえん。アリックスのルームメートの状況がすごすぎることにも驚きました。キャロル〜そんなに簡単に決めちゃっていいの?

やはり、ロマンス小説だったのねと思ったのがリディアのお相手の彼が、かなりなハンサムだったこと。そうだったけ!? 容貌より、たよりがいのあるところが魅力(もちろんそこもなのですが)なんだと思ってました。あちこちにハンサム、ハンサムと出てきます。

訳本の残り2冊も買うつもりですが、原作(実は持っている)を読むまで封印。

日の名残り

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

カズオ・イシグロの「日の名残り」を読みました。初イシグロです。旧家の執事が、お屋敷の新しいアメリカ人のご主人の計らいで、お屋敷を退職した女中頭を訪ねる旅に出ます。美しい景色の中をドライブしながら、執事は、「偉大な執事とは何か」を考察しながら、第二次世界大戦前夜の時代を回想します。執事は結局執事の視点を超えることはできず、物語は静かで、せつなくて、残酷です。けれど、人生の日はまだ暮れてはいない。


現在と過去、国を動かしていた(してしまった)人と、その人たちの傍らで時代の動きを見とどけようとした(見ていただけの)人、主人の人生と自分の人生、ジョークとユーモアなど、層になった小説の構造がうまいなあと感じました。


他の作品も読んでみようと思います。

文庫になった!

まさか、この本が文庫になるとは思いませんでした。モンゴメリの「青い城」(角川文庫)です。訳は岩波少年文庫ワイルダーの「長い冬」の谷口由美子さんです。

青い城 (角川文庫)

青い城 (角川文庫)

村岡花子さん訳のアンのシリーズを読み終わって、「かわいいエミリー」なんかにも手をだしていた頃、ジュンク堂紀伊国屋の本棚で、当時はハードカバーで出ていたこの本を何度か見かけていました。きっかけがなくて今まで読むこと無くきてしまったのですが、今日、本屋さんでみかけて、迷うこと無く買っちゃいました。もったいなくて、まだ、最初の文章しか読んでません。


29才の女性のお話なので、サラ・ウォーターズの「半身」や、オースティンの「説得」(あるいは「説きふせられて」)と同じく、当時なら結婚が難しくなる年齢を生きているわけなのですが。


「その五月の朝、もし雨が降らなかったら、ヴァランシー・スターリングの生涯は全く違ったものになっていただろう」


さあ皆さん舞台の幕が開きますよ、そんな出だしです。

説得

説得 (ちくま文庫)

説得 (ちくま文庫)


ジェイン・オースティンが1817年に42才でなくなる1年前に完成させた長編小説です。ジェイン・オースティンの作品は、


と読んだのですが、「自負と偏見」の次にお気に入りになりそうです。これからもきっと読み返すと思います。

訳あって別れた婚約者と8年ぶりに再会した27才のアン。「自負と偏見」や「エマ」と比べると、キラキラしたところは無いのですが、ヒロインのアンの人生への諦観と、再会したウェントワース大佐への消えない思いの間で揺れる心が、押さえた文章からしみじみと伝わってきます。ページを繰るのがもどかしいと思うほど本に夢中になることが年齢とともに少なくなって、寂しい気持ちがあったのですが、ヒロインの心の迷いに歩調を合わせてゆきつもどりつ読むというのも読書の幸せだと感じています。

*1:日記では別の本を紹介していますが、その本カサンドラの城はビクトリア時代の女性作家たちへのオマージュでもあるので、そのつながりで触れています。

The Shop on Blossom Street

The Shop On Blossom Street

The Shop On Blossom Street

2月から、ながながと読み続けて、昨日読み終わりました。この間、日本語の本は読まなかったのですが、3冊ほど読みたい本がたまって辛かったです。読むと挫折しそうで、ぐっと我慢しました。幸い一章一章が短いので投げ出すことも無く読了しました。ちょっと、出来すぎな結末なんですが「そんなん、あるわけないやん」と思いつつ、途中うるっとしたところもあり、惹き込まれて読みました。結局、途中からは辞書はあまりひかずに、わからない単語はすっとばして読みました。そのせいか、4人の女性のものがたりが一章づつ交互に語られるのですが、私の登場人物への共感や思い入れの度合いによって、理解にかなり差が出てしまいました。Lydia(なんてたって主役です)>Carol(思い込みが強すぎてついていけない部分あり)>Alix(どんどん普通の女の子になっていくところが素敵なのですが、生い立ちを考えるとそんなにスムーズにゆくのだろうか?)>Jacqueline(冷えきった夫やAlixのとの関係の修復過程が今ひとつ非現実的で。)


と辛口なことをいいつつも、素敵な言い回しもあったり、編み物教室という場で出会った4人がすこしずつ関係を深めて友人になってゆくところなど、読むのは楽しくて続編も読むつもりです。

The Shop on Blossom Street

まだ、5章までしか読んでいないのですが、読み終わるのを待っているといつになるのかわからないので、紹介しちゃいます。編物リングの「ユチコの編み物記録」さんの1/31のブログを読んで、その場でアマゾンで購入してしまいました。もちろん、送料無料を狙い続編も購入(←読めるのか?)。

   
   


毛糸屋「A Good Yarn」を開いたLydiaと、彼女が募集した編物教室に集った3人の女性をめぐる物語です。作者のDebbie Macomberさんは大変多作な作家さんで、このシリーズももうすぐ4冊目が出るようです。MacomberさんのHPはこちら


1章が5ページ程度と短く、文章もわかりやすくて、わからない単語はたくさんありますが、読みやすいです。英語の勉強で読んでらっしゃる方が多く、編物に興味の無い方も楽しんで読んでられるようです。読んでわからない単語は、印をつけておいて(本に書き込みをするのは好きではないのですが)、後で調べて、2度読みしていたのですが、物語の先が気になって、主人公に対してプラスの感情をもたらす意味か、マイナスの感情をもたらす意味を持つかがなんとなくわかれば、すっとばして読んでいます。通勤の電車で、1章読めるか読めないかの早さで読んでいます。紋切り型の表現が多いのと、登場人物達が思ったことを、思った通りに言葉にするので(^^)、なんとか誤解なく読めていると思います。あと、Harry Potterの3巻に出てくる呪文の「ridiculous」とか、見ていないのですがドラマ「デスパレートな妻たち」の「desperate」といった単語に出会って、おーっと思ってしまいました。


主人公たちが抱える問題はなかなかに重いものばかりなので(病気、夫婦間の問題、幼児虐待とか、差別・階級意識とかも見え隠れしてます)、表紙の絵のようなほんわかしたばかりのお話ではないようなのですが、彼女達の明日が気になって、ページをめくってしまいます。


さらに、編物をする人ならにっこりできる、編み物に対する思いとか、糸やら道具、編み方のうんちくがいっぱいです。ところで、Lydiaの編み物教室の最初の作品が、ベビーブランケットなのですが、これでは生徒さんが限られちゃうのではと思ったのですが、アメリカではボランティアやチャリティーで編み物をすることも多く、Lydiaはそんなボランティアの一つLinus Projectも視野に入れているんですね。実際にある団体でびっくり。


The Shop On Blossom Street

The Shop On Blossom Street


3/24読了しました。感想はこちら