蛹令嬢の肖像

蛹令嬢の肖像 (集英社文庫)

蛹令嬢の肖像 (集英社文庫)

最初は、キャリアアップを目指す弁護士女性が、顧客である男性と恋愛関係に入るのを躊躇しつつもどうしようもなく惹かれてゆく、というステレオタイプなロマンスと思わせといて、後半からは目がまわるように話が展開します。

「蛹」(フェルメールレンブレントを思わせる架空の17世紀オランダ絵画)が描かれるまでの画家とモデルナチスドイツの思惑によって流転する「蛹」と悲劇に見舞われる所有者一家、「蛹」の返還を求める訴訟を起こした老婦人が生きる現代のニューヨークと3つの時代が物語を織り込んでゆきます。

戦時中に略奪された美術品を、被害者が返還を求める訴訟を起こしても、法律は必ずしも彼らに味方しない。弁護士でもある著者が、法律家としての立場と個人の倫理観との葛藤をきっかけに、小説として魅力をもたせつつ、読者にある答えを示しています。単純な勧善懲悪でないその結末も考えさせられました。