『The Little Strager』(原題)

エアーズ家の没落上 (創元推理文庫)

エアーズ家の没落上 (創元推理文庫)

サラ・ウォーターズを読むのは「半身」以来2作目です。「荊[いばら]の城」と「夜霧」は気が乗らず読んでません。で、「エアーズ家の没落」ですが、怖くて謎がちっとも解けなくて、そして、やはり誰も幸せになりません。

かつて隆盛を極めながらも、第二次世界大戦終了後まもない今日では、広壮なハンドレッズ領主館に閉じこもって暮らすエアーズ家の人々。かねてから彼らと屋敷に憧憬を抱いていたファラデー医師は、往診をきっかけに知遇を得、次第に親交を深めていく。その一方、続発する小さな“異変”が、館を不穏な空気で満たしていき…。

崩れかけたお屋敷が生き物のように、そこに住む人をも押しつぶしてゆくかのような異変の数々。心霊現象?だれかのたくらみ?
「これで、全部の辻褄が合ったと思ったんだもの!」

「私は医者だ。目の前にあるものしか信じない」

謎は最後まできっちりとは解き明かされません。それを最後に手に入れたのは「あなた」なの?

日の名残り」や「贖罪」と重なる時代をあつかったイギリスの暗い一面を背景に持つ作品です。暗いけれど惹き込まれるお話でした。

メイドを呼ぶワイヤーで各部屋と繋がれた呼び鈴や、使用人と家族の使う廊下が分けられているところなど、なかなか想像しにくいのですが、

に詳しく出てきます。

イギリスとモロッコの刺繍

海賊と刺繍女 (集英社文庫)

海賊と刺繍女 (集英社文庫)

古書と刺繍に、17世紀の英国コーンウォールとアフリカ大陸モロッコと現在が交錯しながら進む物語いうことで、読んでみました。

ちょっとヒロインたちに都合よすぎ?という部分が多かったのと、近い時代を扱ったアリソン・アトリーの「時の旅人」ような余韻とか、刺繍の腕が道を開いてゆくという点が似ているグロリア・ウィーランの「家なき鳥」のようなすがすがしさはなかったのですが、大変面白く読めました。ロマンス小説な味付けがばっちりなのと、あまりにもあんまりなスピリチュアルな最後の場面には、ちょっとかゆくなったりもしましたが。

うーん、結局褒めていないのかな?

主人公のキャサリンは、刺繍という仕事に真摯に向き合っている女の子。それゆえにイギリスでの生活に望みがないこともわかっていて、だから町が襲われて白人奴隷(こんな歴史があることは全く知りませんでした)として売られて行った異国の地であっても、そういう選択をしたのでしょうが、ロバートの立場は。。。。人間としての残酷さもたっぷりでてきます。

キャサリンのハリエニシダクレマチスの蔓の刺繍の描写や、カスバ・アンダルスの水路や噴水があり、蔓薔薇が咲くエキゾチックなお屋敷の描写など、波瀾万丈の物語と相まって、映像でみてみたいと思いました。

蒼路の旅人

蒼路の旅人 (新潮文庫)

蒼路の旅人 (新潮文庫)

電車の中で本を読むのが一番落ち着きます。でも、ここ最近は、ついウトウトしたり、何度も同じところを読んでも頭に入らなかったり。。。。

でも!
この「蒼路の旅人」は、昨日、今日で、一気に読んでしまいました。

15才のチャグムの選択。
後書きに「多くの道が見えていても、進もうとするときは、ひとつの道を選ばざるをえません」とありますが、チャグムの船旅は、その一点に向かって、進んでゆきます。立ち止まることが許されない状況の中での彼の行動の清々しさと痛々しさが入り交じって、今までのシリーズの中でも一番読み応えのある作品でした。

ストラップもらった

本を買った時にストラップをもらいました。いくつか種類があるみたいですが、偶然本の帯と同じムシでした。

暑い日が続いています。なので、ひんやりしたミステリーを読んでいます。
氷姫―エリカ&パトリック事件簿 (集英社文庫)
電車の中で読んでいるのですが、ついうつらうつらしてしまって、なかなか進んでいません。やっと、ヒロインが捜査担当者(ヒロインの幼なじみ)と出会ったところ。

原作はシリーズでもう5冊くらい出てるそうです。
説教師 エリカ&パトリック事件簿 (集英社文庫)
日本語訳も2冊目がつい最近出たみたいです。

贖罪

めずらしく現代小説の純文学です。

贖罪〈上〉 (新潮文庫)

贖罪〈上〉 (新潮文庫)

贖罪 下巻 (2) (新潮文庫 マ 28-4)

贖罪 下巻 (2) (新潮文庫 マ 28-4)


ミステリーの要素があるので詳細は避けますが、始まりはオースティンの作品世界のような裕福なお屋敷での日常。けれど、小説家を夢見て姉と同じケンブリッジに進みたかったブライオニーが18才になった時、彼女は第二次世界大戦下、凄惨な状態の傷病兵の看護に明け暮れていました。下巻の最初から200ページあたりまではかなり心臓に悪い描写が出てきますが、上巻の夏の昼下がりのようなけだるい雰囲気との対比で、夏の美しい日に13才の少女ブライオニーが目撃した出来事が発端となり人生が狂ってしまった人々を、さらに翻弄する時代の不幸を際立たせています。そして、物語は、長じて作家になったブライオニーの1999年の回想で締めくくられます。


作家と作品中の作家がともに、読者を幻惑させ、翻弄する、素晴らしく手強い小説でした。


読みながら思い出したのがモンゴメリの「アンの娘リラ」です。手作りを趣味にしていると「アンみたいね」と言われることがあるのですが、アン・シリーズの最終巻のこの作品でアンの家族は第一次世界大戦に翻弄されるのです。ブライオニーとほぼ同じ年代を戦時下に過ごしたリラ、最愛の兄二人と淡い恋心を抱いている男性は出征しています。二人の少女の姿が、ネガとポジのように反転して見えたり、作家と作家が生み出したキャラクターという点で重なったりもして。ルーシー・モンゴメリが、彼女が生み出した作品とは異なり、悩みの多い結婚生活を過ごしていた事は知られてきていますが、モンゴメリ自身は作品を虚構と思っていたのか、追い求めた果てにたどり着いた真実だったのか。。。


実はこれの下書きを書いている間に温泉卵を作っていたのですが、ハッと気づいたら15分オーバー。ゆで卵になっていました。塩豚とキャベツのパスタに載せて、とろ〜と頂きたかったのですが。日常生活はハードボイルドになってしまいました。

お仕事

年度末が近づいているせいか、みなさんお仕事がいそがしくなっているようですね。よく訪問しているブログもお仕事がらみの話題が多くなっています。かくいう私も、エクセルで管理していたデータを、アクセスに移してアレコレできるように形を整えるというお仕事で結構くきーっとなる毎日を過ごしています。

Accessのデータベースのツボとコツがゼッタイにわかる本

Accessのデータベースのツボとコツがゼッタイにわかる本

この入門書とネット検索をたよりにやってます。最低限、発送用のラベルが打ち出せればいいのですが、そこはそれ、追加データ用の入力フォームだの、区分別発送数の表などもつくりたいわけです。そうはいっても、参考にした本に記載されている範囲で充分できることなんですが。でも、これってあとからわかるんですよね〜。


意外に役立ったのが学部時代の「電子計算機計算法」の遠い授業の記憶。ベーシック(今や死語?)でちまちまやった操作やデータ処理のしくみなんかの断片的な記憶(知識ではなくあくまで記憶)が「くきーっ」となる頻度を軽減してくれたような気がします。私は情報系ではない理系の学校を出てるのですが、なんとなく文系の頭だよなあと思っていたのですが、教育って無駄にならないもんです。


あとは、レポート作成時のとあるNull問題をクリアすればオッケイなハズ。


ちょっと、むっとしたのは、正職員さんの一人が資格をもってるみたいなので、要所要所で見てもらっているのですが、具体的なことを何もいってくれないこと。問題がなかった部分には渡したメモに花丸がついて戻ってきました。なんだかな〜、私的にはもっとエレガントな方法があるよとか言ってほしいのに。

1/20
Null問題クリアできました(*´∀`*)
発送数を区分別にカウントした時、ある区分がカウントゼロ[Null値]の時、空白で表示されたり、その値の書式を変えて0と表示させても、いざその値を用いて計算させると、A-BのBがゼロ[Null値]の場合、40-0=空白とか40-0=0とかになっていたのです。計算式に「Null値を0に変換して計算せよ」というNz関数をつかわないといけないのでした。わかっちゃうとねー、そうなんだーなんですが。

実行アイコンをクリックして、さーっと値が出た時はおもわず「できた!」と口走っちゃいました。

フィデルマと紫式部

蛇、もっとも禍し上】 (創元推理文庫)

蛇、もっとも禍し上】 (創元推理文庫)

修道女フィデルマシリーズの最新刊「蛇、もっとも禍し」を読みました。前作までは夏に一気読みしましたこちら。シリーズ物で新しいのが出ると、ついつい最初から読み返します。ええ、ミステリーでも。


「蛇、もっとも禍し」は、作品世界の時系列的には既に出ている「幼き子らよわがもとへ」と「蜘蛛の巣」との間にあたります。物語は基本的には独立しているので問題はないのですが、原作とは異なる刊行の順番なのでちょっと混乱します。翻訳の順番がアレなのは原作の1作目の舞台がローマでアイルランドを舞台にしたシリーズなのにそれはちょっとということらしいです。


それはともかく、前作2作は、前半こちらが理解しなければならない国同士の背景やら法律に関することが多くて、読むのが大変だったのですが、「蛇、もっとも禍し」は、物語が走るスピードが速くて、楽しめました。


フィデルマが生きた時代は、7世紀のアイルランド。この三作は666年から7年のお話。日本だと飛鳥時代壬申の乱のちょっと前。そう考えるとフィデルマは高い教養の持ち主だけれど、日本だって聖職者以外にも文字が書けたり当時の外国語である漢籍を読める女性はいっぱいいたはずだから負けてないはず。でも、仕事が持てない、屋敷の外に出られないでは、フィデルマのようなヒロインは日本が舞台だと難しいかなあと思っていました。でも、あったんです。少し時代は下りますが紫式部が謎を解く「千年の黙(しじま) 異本源氏物語森谷明子をちょっと前に読みました。そっか、宮仕えがあるじゃん!

千年の黙 異本源氏物語 (創元推理文庫)

千年の黙 異本源氏物語 (創元推理文庫)

とはいえ物語は最初式部が宮仕えに出る前の奥様時代から始まるので彼女はお屋敷の外に出ることはまずできません。なので、彼女の目や足となって女童のあてきや文使いの岩丸といった子供たちが活躍します。枕草子にも出てくる帝が可愛がっている猫の「命婦」が行方不明になってしまった事件や、源氏物語の失われた章かもしれない「かがやく日の宮」をめぐる謎など、平安時代の古典が好きだと楽しいと思います。「雲隠」の章での、紫式部藤原道長にしかけた「かがやく日の宮」の件に対する痛烈な仕返しなども物語を書く人の矜持が感じられて印象に残ります。フィデルマシリーズのように死人は出てこず、扱う謎は、猫がいなくなった、届けたはずの本がなくなってしまったといった日常のものなのですが、それぞれの物語の背後には当時の政治闘争があり、決してほのぼのしたものではありません。あてきも物語の最後では尼となっていて、ほろ苦い読書感でした。