それはあんまりだ

ここ数ヶ月は、一回読んだ本を読み返すサイクルに入っています。イギリスつながりで、アトリーの「時の旅人」、ジェイン・オースティンを何冊かと、サラ・ウォーターズの「半身」です。「半身」は一応ミステリーの範疇にはいるのですが、ミステリーを読み返すなんて自分でも時間の無駄と思います。でも、コレに関しては読み返して正解でした。最初読んだ時には、ついつい結末が気になって、先へ先へとひたすら読み進んでしまって、衝撃的な結末に呆然。その後、数年本棚に眠っていました。結末を知っている分、重い気分で読み返し始めたのですが、登場人物の思惑や、物語の結末を暗示させるさりげない記述がそこここに仕込まれていることに気付いて、作者の用意周到な筆に魅惑されました。


半身 (創元推理文庫)

半身 (創元推理文庫)


長くなるので畳みます。
ヒロインのマーガレットは詩や歴史(特にルネサンスのイタリア)が好きなのですが、研究者の父親が亡くなって、彼女や彼女の興味を理解してくれる人がいなくなってしまいます。親友もマーガレットの弟と結婚してしまいます。父にも友にも置いていかれてしまったように感じているマーガレットは、健康も害し、生きるのがやっとの状態(薬も現代から見たら悪くなりこそすれ、よくならないんじゃというものですし)。そんなマーガレットに母親が吐き捨てるように「あなたはブラウニング夫人じゃないんだから。いくらそうなりたいと願っても」と言います。このブラウニング夫人という名前なんですが、マーガレットより先に結婚した親友や妹の名字でもないし、???でした。検索したらけっこうあっさりわかったのですが、「えっ、えっー!」でした。これって作者(訳者も?)の目配せなんでしょうか?マーガレットが「オーロラ」と呼ばれる理由は、後の方で出てくる詩の題名と訳注でなんとなくわかるんですが。ここには訳注はないんです。気になる方は読んだあとで「エリザベス・ブラウニング」で検索してみてください。この方、旦那さまの詩とともに「赤毛のアン」シリーズの中にも引用されています。今でも英文学の必須教養なのでしょうか?なんだか、気付いていない伏線が他にもありそうです。にしても、バイオリズムが落ちている時にはきつい本です。


ところで、今日のタイトルのーあんまりなことーは、この物語の結末と、この物語に出てくる「老嬢」という言葉です。29才のマーガレットは実の母親にもこの言葉を投げつけられるのですが、なんとなく○ールド・ミスかなと思っていたら、原文では「Spinster」、もともとの意味は「紡ぎ女」という意味だそうです。あ、あんまりです。