羊毛染色の本を見つけました。


染めには手を出すまいと思っていました。鮮やかな色は市販の糸で、手紡ぎの糸はナチュラルカラーそのものを楽しもうと思っていたのです。その気持ちがコロッと変わってしまったのは、RUMIKOの糸づくりノートさんの染められたウメノキゴケから生まれた美しい赤紫色の糸がきっかけです。ウメノキゴケというのは、梅や桜などの木の幹にはり付いているぴらぴらした白緑色の生物です*1。コケという名ですが、緑色のフワフワしたコケとは違う仲間で、菌類と光合成をする藻類が共生した生物で地衣類と呼ばれています。


夫に「地衣類で染色ができんるんだって!」と意気込んで話すと「地衣類は見分けが難しくて、発色させて種類を調べることもあるんだよ」と教えてくれました。それをきっかけに、理科方面でリトマス紙や、細胞の核だったかな?を染める酢酸オルセインという染色液は、地衣類から作られる色素と同じ成分を含んでいることなど思い出しました。染色って化学なのですね。私の住んでいるところは中途半端に自然が豊かです。最近は山の中でいろいろ採るほうがかえって気を遣ちゃいますし、ベランダでは栽培も限られてしまうので、住居の敷地内の植え込みや近くの公園でも採集可能な材料は大歓迎なのです。


俄然興味が湧いていたところに、昨日、ジュンク堂で運命の出会いがありました(主目的は別の本だったのですが)。


続 ウールの植物染色(寺村 祐子 著 文化出版局 版1992年10月 発行)ISBN:4579204204


新書サイズで、ハンディな植物図鑑のような感じの本です。正・続の2冊がありますが、内容は重なっている部分もあるので、地衣やキノコを使った染めを紹介していて染めの過程の写真も多い「続」を購入しました。媒染や助剤による発色の違いや、堅牢度の程度も記号で書かれていて、せっかくなら色は長持ちしてほしいなあと思う私にはぴったりです。ウメノキゴケの堅牢度は二重丸ではないけれど弱くもないそう(注、ウメノキゴケそのものについては正にのっています)。地衣類以外にも、いろいろな植物やキノコ、海草なども紹介されていて、限界はあるもののミョウバンや無媒染でも、綺麗に染められそうな素材がありました。


この本には、地衣類の染めについて歴史的なことは書いていないのですが、これは伝統的な染めの技術なのかもと思い、さっそく調べてみましたら、ありました!地衣類染色法 寺村祐子(ライケン5(1): 2-4, 1982)。ライケンとはlichenで地衣類のことです。


日本産の地衣類での染色の普及は寺村祐子さんの努力によるものが大きいのだと感じました。それと、染めにはアンモニアをけっこう使うのだと知ったときに、ちょっと思ったことがあったのですが、やっぱりそうでした(知りたい方は地衣類染色法を読んで下さいね)。英語が苦にならない方は、Lichen, dye, wool, Orchilなどで検索すると情報がいっぱい出てきます。高価な貝紫の下染めや代替品として、ギリシャ、地中海地方で紀元前から利用されpoor person's purpleなどと呼ばれ、寒い地方でも育つので北欧でも広く利用されているそうです。また、底なしの世界へ入り込んでしまいそうです。

*1:ウメノキゴケといっても実際には何種類もあるようなのですが、多少種類が違っても染めるのには大丈夫なようです