戸棚の中の骸骨

野兎を悼む春 (創元推理文庫)

野兎を悼む春 (創元推理文庫)

アン・クリーヴスのシェトランド四重奏の3作目「野兎を悼む春」を読み終わりました。「大鴉の啼く冬」、「白夜に惑う夏」と、このシリーズは邦題が美しいですよね。シリーズ最後は「秋」なんですね。原題は、「RAVEN BLACK」、「WHITE NIGHTS」、「RED BONES」と「色」つながり。

シェトランド署のサンディ刑事は、帰省したウォルセイ島で、祖母ミマの遺体の第一発見者となってしまう。ウサギを狙った銃に誤射されたように見えるその死に、漠然とした疑惑を抱いたペレス警部はサンディとふたりで、彼の親族や近くで遺跡を発掘中の学生らに接触し、事情を探ることに……小さな島で起きた死亡事件の真相は?現代英国ミステリの珠玉“シェトランド四重奏”第三章。(本書あらすじより)

物語はゆっくりと展開して、なかなか解決に近づきません。事件はあくまで「事故」として処理されつつあり、事件性の確信はペレス警部の直感の中にしかありません。
しかし、縦が6マイル、幅が2マイル半しかない小さな島の密接な人間関係、親子関係、家族関係。島の伝統工芸や、遺跡にひかれて、島の外から来て留まろうとする人と島内の人々との微妙な関係など、小さなコミュニティーのもつ複雑さの中で育ったペレス警部やサンディ刑事(過去二作にも登場。でも、すっかり忘却の彼方でした)だからこそ、何かが引っかかる。

「どこかの家で、友人か親戚が秘密を守っている。あそこは、そういう土地です。」

「ほら、"戸棚の中の骸骨"って言い回しがあるじゃないですか。家族のいかがわしい過去は、いつまでもつきまとう。あれってそういう意味ですよね。」

前半、中盤は登場人物のオムニバスとして読ませ、謎が積み重なったところで、謎が一気に解き明かされるラストの数十ページ(あと、二駅でおりなきゃなのに〜)は、圧巻でした。