レディ・ジョーカー(文庫)

レディ・ジョーカー〈上〉 (新潮文庫)

レディ・ジョーカー〈上〉 (新潮文庫)

 高村薫さんの作品は、ずうーっと前に「マークスの山」を読んで、今ひとつ入り込めなかったんですね。で、ずっと読まずに来たのですが、年末年始とどっぷり読みふけっていました。

レディ・ジョーカー』は、合田雄一郎シリーズの第3作目。『マークスの山』、『照柿』の続編です。なので、彼の個人的なあれこれは、前作から続いているのですが、本作で、彼個人の心情が定まります。というか認めます。

事件そのものは、社会的弱者、組織、個人、企業、政治、社会の闇、それらにまとわりつくお金と、大変複雑な流れになっています(グリコ・森永事件がモチーフになっています)。前半は犯人視点で計画がうまくいくかドキドキし、中盤は捜査の行方にやきもきし、後半は、事件すらエサにする得体の知れない勢力に、背筋が寒くなり。。。。
流して読むと、読み落とすのは確実なので、じっくりじっくり読んだのですが、次はどうなるのか本当にページをめくるのがもどかしかったです。

今は『照柿』を読んでいます。
実は『レディ・ジョーカー』→『照柿』の順に発表されたのかと勘違いしていて。でも、一作一作の独立度が高いので、いいのです。

ゆっくり読むのがおすすめ

リヴァトン館

リヴァトン館

老人介護施設で暮らす98歳のグレイス。ある日、彼女のもとを新進気鋭の映画監督が訪れる。1924年に「リヴァトン館」で起きた悲劇的な事件を映画化するにあたり、ただひとりの生き証人であるグレイスにインタビューしたいと言う。封じ込めていた「リヴァトン館」でのメイドとしての日々がグレイスのなかで鮮やかに甦る。ふたりの美しいお嬢様、苦悩する詩人、厳格な執事、贅を尽くした晩餐会―そして、墓まで持っていこうと決めたあの悲劇の真相も。死を目前にした老女が語り始めた真実とは…。滅びゆく貴族社会の秩序と、迫りくる戦争の気配。時代の流れに翻弄された人々の愛とジレンマを描いた美しいゴシック風サスペンス。(本書あらすじより)

国や背景が共通するカズオ・イシグロ日の名残り」や、 イアンマキューアン「贖罪」とつい比べちゃうのですが、実際作者も後書きで「日の名残り」を挙げてらっしゃいます。きっと「贖罪」も読んでいるはず。この二作よりは若干、甘めな味付けになっています。ここ伏線だろうな〜というところはけっこうわかっちゃううし。。。。ちょっとできすぎな顛末もあったり、ロマンティックな余韻にも浸れます。

過去を振り返る物語なので、読者も、悲劇がやがて訪れることはわかっているのです。でも、違った未来があったのかもしれない。そんな、グレイスの逡巡を追体験するように、ゆっくり読むのがおすすめです。

戸棚の中の骸骨

野兎を悼む春 (創元推理文庫)

野兎を悼む春 (創元推理文庫)

アン・クリーヴスのシェトランド四重奏の3作目「野兎を悼む春」を読み終わりました。「大鴉の啼く冬」、「白夜に惑う夏」と、このシリーズは邦題が美しいですよね。シリーズ最後は「秋」なんですね。原題は、「RAVEN BLACK」、「WHITE NIGHTS」、「RED BONES」と「色」つながり。

シェトランド署のサンディ刑事は、帰省したウォルセイ島で、祖母ミマの遺体の第一発見者となってしまう。ウサギを狙った銃に誤射されたように見えるその死に、漠然とした疑惑を抱いたペレス警部はサンディとふたりで、彼の親族や近くで遺跡を発掘中の学生らに接触し、事情を探ることに……小さな島で起きた死亡事件の真相は?現代英国ミステリの珠玉“シェトランド四重奏”第三章。(本書あらすじより)

物語はゆっくりと展開して、なかなか解決に近づきません。事件はあくまで「事故」として処理されつつあり、事件性の確信はペレス警部の直感の中にしかありません。
しかし、縦が6マイル、幅が2マイル半しかない小さな島の密接な人間関係、親子関係、家族関係。島の伝統工芸や、遺跡にひかれて、島の外から来て留まろうとする人と島内の人々との微妙な関係など、小さなコミュニティーのもつ複雑さの中で育ったペレス警部やサンディ刑事(過去二作にも登場。でも、すっかり忘却の彼方でした)だからこそ、何かが引っかかる。

「どこかの家で、友人か親戚が秘密を守っている。あそこは、そういう土地です。」

「ほら、"戸棚の中の骸骨"って言い回しがあるじゃないですか。家族のいかがわしい過去は、いつまでもつきまとう。あれってそういう意味ですよね。」

前半、中盤は登場人物のオムニバスとして読ませ、謎が積み重なったところで、謎が一気に解き明かされるラストの数十ページ(あと、二駅でおりなきゃなのに〜)は、圧巻でした。

エリカ&パトリック事件簿シリーズ第3作

悪童―エリカ&パトリック事件簿 (集英社文庫)

悪童―エリカ&パトリック事件簿 (集英社文庫)

「説教師」「氷姫」に続く「悪童」」です。700ページ近くの厚さですが、電車の中で、うたたねすることもなくひたすら読みました。子殺し、病気や不倫、近隣トラブルなどなどてんこ盛り、合わせて1923年から始まる過去の物語、エリカの妹の現在、三つのストーリーが進行しますが、混乱せずに読めるのは作者のうまさですね。でも、シャネット、シャロットのまぎらわしい名前は勘弁してほしかったです。

いろんな方が書いてられますが、全二作と比べて本作が一番読み出がありました。にしても、事件は解決しても、この終わり方は。。。次の作品が気になります。

日本のミステリーも読んでたんですよ〜

楽園 上 (文春文庫)

楽園 上 (文春文庫)

宮部さんの「火車」とかは好きなんですが、超常現象っぽい「魔術はささやく」とかは?なので、これもなんだかな〜な読後感。
八日目の蝉 (中公文庫)

八日目の蝉 (中公文庫)

NHKのドラマを見てから、読みました。映画は見ていません。いろいろとわりきれないお話です。
告白

告白

後味悪し。。。

守り人シリーズ最終章

大海原に身を投じたチャグム皇子を探して欲しい―密かな依頼を受けバルサはかすかな手がかりを追ってチャグムを探す困難な旅へ乗り出していく。
刻一刻と迫るタルシュ帝国による侵略の波、ロタ王国の内側に潜む陰謀の影。
そして、ゆるやかに巡り来る異界ナユグの春。
懸命に探索を続けるバルサは、チャグムを見つけることが出来るのか...。
大河物語最終章三部作、いよいよ開幕。(帯より)

天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編 (新潮文庫)

天と地の守り人〈第1部〉ロタ王国編 (新潮文庫)

天と地の守り人〈第2部〉カンバル王国編 (新潮文庫)

天と地の守り人〈第2部〉カンバル王国編 (新潮文庫)

天と地の守り人〈第3部〉新ヨゴ皇国編 (新潮文庫)

天と地の守り人〈第3部〉新ヨゴ皇国編 (新潮文庫)

読み終わっちゃいました。。。。
文庫落ちしてから読み始めたので、10年かけて読んだ訳ではないのですが、その間は不用意に書評を読んだりしないように気をつけていました。
読み落しがないように「精霊の守り人」から読み返して、ここ一月、電車の中ではどっぷり「守り人」三昧。読み終わって、昨日今日は、いろんな方の感想を読むのを楽しんでいます。

天と地の守り人」は、これまでのシリーズと違って、個々の登場人物が、バルサやチャグムでさえも時に存在が小さな点に見えてしまうのです。いずれ歴史となる国と国との大きな動きの中で物語が進むからでしょうか。その小さな点にすぎない人々が、その人らしくどう生きようとするか、そのそれぞれの選択が感動的でした。

小さな描写に、込められた作者の思いも深かったです。
子供が生まれたばかりの弟の身代わりとして、親族の思惑で戦場に送られてしまったタンダの留守宅が手入れされているところとか。ほぼ死ぬとわかってて、身内の中で一番身軽なタンダを行かせてしまうのだけれど、タンダのお兄さんのせめてもの思いが切なかったです。

上橋さんは「大きな物語として書き継ぐことは、多分、ないでしょう」と後書きで書かれていますが、アスラの言葉はもどっていないし、守り人シリーズの「蒼路の旅人」から登場するアラユタン・ヒュウゴは、主役はれそうなくらい魅力的だし、どうなんでしょう?

まだ、バルサの少女時代を描いた短編集「流れゆく者」とバルサとタンダのその後を描いた短編「春の光」が未読ですが、もう少し楽しみにとっておきます。

オマージュだよね

ここ数年は西洋の歴史物ばかり読んでいますが、学生の頃は吉川英治の『三国志』や、日本の歴史ものが好きでした。

少し前にテレビで『レッドクリフ』を見て、なんだかどっと記憶が蘇ってきました。金城武さんの孔明役お似合いでした。

で、昨日読み終わったのが、

泣き虫弱虫諸葛孔明〈第1部〉 (文春文庫)

泣き虫弱虫諸葛孔明〈第1部〉 (文春文庫)

泣き虫弱虫諸葛孔明〈第2部〉 (文春文庫)

泣き虫弱虫諸葛孔明〈第2部〉 (文春文庫)

レッドクリフ』、三国志ってこんなにありえない設定だったっけ?と唖然としながら見入ってしまったのですが。まあ本でも、一人で千人と戦うとか出てくるんですが、あらためて映像で見るとね、そういう所とは別に結構本筋にかかわるところで「三国志演義」や「三國志」にもつじつまが合わないところや、しれっと飛ばしてるところがあるようで、だからこそ、長年のうちにいろいろな解釈が加わって物語として多くの読者や作家を惹き付けているようです。

レッドクリフ』の一場面。孫権の妹の孫尚香に、劉備が鼻の下を伸ばしている場面で、尚香が「なによこのオヤジ」みたいな感じで気功?ツボ押し?みたいな技をかけて失神させてしまうんです(もちろん、これは映画上の演出)。その場面で孔明は「あ〜、あぶないな。やるな、これは。あーやっちゃた。」みたいな表情(←ちょっと性格悪し)を見せるんですが、酒見さんの描く孔明は、私に取ってはこのイメージ。

電車の中で、ちびちび読んでいましたが、おもしろく読めました。

最近の大河ドラマの主人公たちのように「民の平穏な暮らしと平和」を常に望んでいる、ということが本当でないように、今の基準で当時の人の心情や行動をおしはかっちゃうと「三国志」なんて、戦争ばかりで、楽しく読むなんて事は出来ません。『三国志』って女の人があんまり出てこないので、そこも少しつまらないのですが、当時の武将にとって「妻子は衣服のごとし」だったみたいで、戦に負けて死なせてしまったら、また、迎えればいい存在。

酒見さんはそのあたりも、茶々やつっこみをいれながら、歴史としての三国志と、物語としての三国志を、うまく、語ってくれているなあと思いました。

けっこう一冊が分厚いんですが、赤壁の戦いはまだ。五丈原なんて、いつになるやら。

ハリー・ポッターと死の秘宝

しばらく更新があいてしまいました。その間、何をしていたかというと
↓を編み続け、

ハリー・ポッターと死の秘宝 上下巻set (携帯版) (ハリー・ポッターシリーズ)

ハリー・ポッターと死の秘宝 上下巻set (携帯版) (ハリー・ポッターシリーズ)

を読んでいました。

携帯版で読んでいたので、8年かかって読み終わりました。原書は2007年、通常版の翻訳は2008年に出ていたので、その間、ネットなどで不用意に書評などを見ないようにしてきました。長かった。

一応、畳みますね。

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